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電波天文学では、宇宙からやってくる様々な波長の電波を観測し、その天体の様子を探ります。
この展示では、電波による過去からの観測成果や、観測に使われる世界各地のアンテナの写真を見ることができます。
さらに、展示室に隠されている電波源をパラボラアンテナを操作して発見し、その電波の波長や波形から、電波源の天体の様子を知ることのできる体験型展示になっています。
電波では何が見えるのでしょう? 今後どのような計画があるのでしょう?
【宇宙からの電波の発見】
宇宙からの電波は、アメリカの無線技術者カール・ジャンスキーによって1931年にはじめて観測されました。第二次世界大戦後、電波測定の技術が天文学にも応用され、新しい「宇宙を見る目」になりました。
電波は波長が長いために星間物質による散乱・吸収を受けにくいので、暗黒星雲の背後やより遠くの宇宙を見通すことが可能です。そこで、銀河系の渦巻き構造の解明、3度K宇宙背景放射やパルサーの発見などの大きな成果が電波観測によってもたらされています。
【電波望遠鏡のしくみ】
電波望遠鏡はお椀型のパラボラアンテナが一般的です。これは反射面に金属の回転放物面を用いていて、反射した電波を一点(焦点)に集めています。
望遠鏡の分解能(細かく見分ける能力)は観測する電磁波の波長が長くなると悪くなり、望遠鏡の口径が大きくなると良くなります。可視光より一万倍以上も波長の長い電波の場合は、分解能を良くするために可視光よりもずっと口径の大きな望遠鏡が必要になります。そこで大きなパラボラアンテナを作ることだけではなく、二基以上の電波望遠鏡を数百〜数千m離して設置し、その出力を合成して分解能を上げる干渉計技術も使われています。
【電波で見る宇宙】
天体からの電波放射にはいくつかのメカニズムがあります。どのメカニズムで電波が放射されたかを知ることによって、その天体の物理状態(温度や物質密度や運動など)を知ることができます。
・シンクロトロン放射:
光速に近い速度で運動する電子が、宇宙のいたる所に存在する磁場中でローレンツ力を受け、円運動する際に放射されます。銀河中心核などの活動現象や、超新星残骸などの高温で強い磁場が存在する天体を調べることができます。
・熱制動放射:
高温で電離したガス中の電子が、陽子などの陽イオンからの引力を受けて進路を曲げられる際に放射されます。若いO・B型星の強い放射によって電離したガス領域(HII領域)など。
・電離原子の再結合:
電離した原子と電子が再結合する際に放射されます。原子や分子の特定のエネルギー準位間の遷移によるものなので、特定周波数の線スペクトルとして観測されます。電波の線スペクトルは一万〜十万度の電離ガス領域から放射されます。
・水素原子の21cm線:
中性の水素原子中の電子のスピンが反転する際に放射される線スペクトルです。百度K〜千度Kぐらいの水素のガス雲から放射されます。
・分子の回転遷移:
百度K以下になると水素や他の元素は互いに結合して分子になります。分子は固有の回転状態になっており、回転準位が変わるたびに固有のスペクトル線を放射します。暗黒星雲(分子雲)など星の誕生する領域から放射されます。
・宇宙背景放射:
ビッグバンから38万年後の「宇宙の晴れ上がり」時に宇宙に満ちていた約3千度Kの光の名残りです。光子は赤方偏移を受けて波長が延び、現在では電波からサブミリ波で観測されます。
【ALMA計画】
現在、日本、台湾、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ南天天文台を代表とするヨーロッパ連合の国際共同プロジェクトとして、チリのアタカマ砂漠にパラボラアンテナ80台を設置する「ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)」計画が進められています。2002年からアンテナの建設が始まっており、2012年から本格的な観測が始まる予定です。
ALMAによる観測で、130億光年彼方の生まれたての銀河や、私たちの太陽系とは別の惑星系が生まれる様子、地球外にある有機分子など、光では見えない宇宙についての研究が大いに進むと期待されています。
参考資料
JAXA宇宙情報センター ホームページ
http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/radio_telescope.html
ALMAホームページ
http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/
文 学芸課 天文係