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3000から3度Kの温度を持つ物体は、おもに波長1から100μmにわたる赤外線を放射します。従って、赤外線天文学は宇宙の中の比較的低温の天体現象の研究に適しています。ここでは、赤外線天文衛星「あかり」のプロトタイプモデルとともに、赤外観測のための工夫と、その観測成果を見てみましょう。
あかり衛星にはどんな工夫があるのでしょう?
【赤外線観測の工夫】
赤外線望遠鏡の基本的な構造は可視光用のものと変わらず、反射鏡によって赤外線を集める反射光学系が主流です。しかし、身の回りにある普通の温度の物体は赤外線を強く放っています。望遠鏡や、可視光では透明に見える大気も例外ではありません。この赤外線を抑え、天体からのかすかな赤外線を捉えるために、観測装置を冷却したり、副鏡を素早く振動させて天体とその近くの空を交互に観測して両者の差をとる(チョッピング法)などの工夫が必要です。また、長波長側の赤外線は、地上まで届かないので、地上観測では近赤外線領域での高解像度の観測に限定されてしまいます。
あかり衛星は、液体ヘリウムとスターリングサイクル機械式冷凍機を使って、望遠鏡と観測装置を約−270℃の極低温まで冷やし、自身の熱放射を極限まで抑えています。この極低温状態を保つために、望遠鏡と観測装置は真空容器(クライオスタット)に入れられており、望遠鏡の前には蓋(アパーチャーリッド)がつけられています。この蓋は真空の宇宙空間に出たあとで開けられて、観測が始まります。
ロケットでの打上げのため大口径の望遠鏡にすることは出来ませんが、これらの工夫によって、地球大気の影響も自身の熱放射の影響も受けない高感度の観測が可能となります。太陽の熱放射も大敵ですので、大きな日よけ(サンシールド)で太陽光が望遠鏡に差し込まないように守られています。
【あかり衛星の運用と成果】
「あかり」は2006年2月22日に、宇宙科学研究所のM-Vロケットによって、高度約 700 km の太陽同期軌道に打ち上げられ、5月から本観測を開始しました。2007年8月には液体ヘリウムがなくなりましたが、冷凍機冷却のみの観測を続け、2011年11月24日に停波、すべての運用を終えました。
その間の観測データから、天体数が130万点にのぼる赤外線天体カタログや5千個を超える小惑星カタログを作成公開し、惑星形成や銀河の星形成メカニズムに関する新たな発見、さらには宇宙の歴史の解明など、多岐にわたる天文学上の成果をあげました。
参考資料
ISASニュース「特集赤外線天文衛星あかり」(2009)(宇宙航空研究開発機構)
http://www.isas.jaxa.jp/j/special/2009/akari/
文 学芸課 天文係