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磁石にくっつく液体である磁性流体について知ってもらいます。磁界が作り出す美しい造形物を楽しんでもらいながら、磁石に反応する液体の使い道を考えて頂ければと思います。
【磁性流体とは】
磁性流体は磁石に反応する液体です。1960年代に、ロケットでの液体燃料の搬送制御に用いるためにNASAで開発されました。鉄のように強く磁石に引きつけられながらも液体としてふるまうことから、その特性を利用して回転軸のシールやダンパー、スピーカーなどに用いられています。
【回転軸のシール】
回転する軸に沿ってホコリや気体が出入りすることを防ぎたいことがあります。例えば、容器の中にガスが詰められていて、容器の中の物を操作するために回転するハンドルが取り付けてあるとき、ハンドルの軸にそって中のガスが逃げ出してしまうのを防ぎたいときなどです。そのような時に、磁性流体を使ってシールする方法があります。回転軸のまわりに磁石を配置することで、回転軸と軸受けの間に磁性流体がとどまるようにします。軸が回転しても、磁性流体は液体なので軸から離れることがないため、気体やホコリが出入りするのを防ぎます。
【ダンパー】
ダンパーは振動や衝撃を吸収する装置です。自動車が段差を乗り越える時に、ショックが車内に伝わらないようにするのはバネによるものですが、バネは振動を続ける性質があるので、バネだけだと車が揺れ続けることになります。それでは自動車は不安定ですし、乗り心地もふわふわと気持ち悪いものになってしまいます。そのため、バネの振動を吸収するために ショックアブソーバーやダンパーと呼ばれる装置が取り付けられています。
ダンパーはオイルや空気などを用いているものが一般的ですが、磁性流体を用いると振動を吸収する量を変化させることができます。磁性流体の特徴として、磁場をかけると磁性流体の粘性が増加するということがあります。粘性が変化すれば振動の吸収が変化します。その時々の状況に応じて磁場を変化させることで振動や衝撃を吸収する度合いを変えるダンパーを、磁性流体で作ることができます。
【磁性流体の正体】
磁性流体は『強磁性体の微粒子』『界面活性剤』『ベース液』の3つから出来ています。
『強磁性体の微粒子』
強磁性体とは鉄やニッケルなど磁化されると磁石になるような物質のことです。磁性流体ではマグネタイトや複合フェライトの直径10nm程の微粒子が用いられます。磁性流体が磁石に引きつけられるのは、この微粒子が磁石に反応するためです。
『界面活性剤』
界面活性剤は洗剤の主成分で、水になじみやすい部分と油になじみやすい部分の両方を持っています。油汚れが洗剤でとれるのは、界面活性剤の油になじみやすい部分が油とくっつき、水になじみやすい部分で水に溶け込むことによるものです。
磁性流体では、界面活性剤が強磁性体の微粒子を包み込みます。それによって微粒子同士がくっつくのを防ぎ、ベース液の中に溶け込みます。また、界面活性剤の働きによって、微粒子がベース液の底に沈んだりするのを防いでいます。
『ベース液』
ベース液には水性のものと油性のものがあり、使用目的によって使い分けられます。
【スパイク現象】
磁性流体に磁石を近づけるとたくさんのトゲが並ぶように形を変化させます。これをスパイク現象といいます。磁石の磁力線に沿って磁性流体が集まろうとするものの、磁性流体同士の反発によってこの形になると思われます。このスパイク現象を用いて芸術作品が作られています。
参考資料
視覚でとらえるフォトサイエンス物理図録(2006)数研出版編集部(数研出版)
文 学芸員 山田吉孝