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おもりの重さが変化するわけでもないのに、ハンドルを回していくと、ハンドルを支えるのにより大きな力が必要になります。回転軸まわりのモーメントという概念を身体で体験してもらいます。
ハンドルを回しておもりを持ち上げるという展示品です。図1のようにハンドルを握って、ハンドルに直結したおもりを、ハンドルを回転させることで持ち上げていきます。おもりの位置が図2のように高くなるにつれて、ハンドルを回す力が重くなることに注目してください。おもりの重さが変わるわけではないのに、ハンドルにかかる力が大きくなっていくのはどうしてなのでしょうか。
【水平距離の違い】
ハンドルを回していっても、おもりの重さは変わりません。ハンドルからおもりまでの距離も変わりません。では、何が変化することで、ハンドルにかかる力が変化するのでしょうか。ここで図3のように水平距離というものを考えます。ハンドルとおもりが水平方向にどれぐらいずれているのかを水平距離とします。おもりがハンドルの真下にあるときは、2つの水平距離は0(ゼロ)です。おもりがハンドルと同じ高さまで上がったときの水平距離は最大になり、おもりからハンドルまでの長さと同じです。つまり、おもりの位置が高くなるにつれて、ハンドルからおもりまでの水平距離が長くなります。それにつれて、ハンドルにかかる力が大きくなっていきます。 ハンドルにかかる力は、この水平距離に比例します。
【力のモーメント】
水平距離におもりの重さを掛け算したものがハンドルにかかる力であると考えることができます。これを物理用語で『力のモーメント』といいます。特に、回転軸のまわりの力のモーメントを『トルク』といい、自動車などのエンジンや、発動機の性能を表す数字として用いられます。自動車の性能を表すのに『馬力』がありますが、これはトルクに回転数をかけたものになります。
【身の回りのモーメント】
展示品でおもりを高いところまで上げると、すなわち水平距離が長くなると、おもりが落ちないようにハンドルを固定するのにより大きな力が必要になります。このことを逆に考えると、水平距離を長くすれば、回転軸により大きな力をかけることができます。ねじやナットを締めるときに使う工具に、スパナやレンチがあります。それらも柄の長いものを使えば、ナットをより強力に締めることができます。ただし、強く締め過ぎるとボルトが折れるなど問題があるので、小さなナット用のスパナは柄が短くなっています。つまり、適切な力がかかるように、スパナやレンチの柄の長さは工夫されています。
参考資料
視覚でとらえるフォトサイエンス物理図録(2006)数研出版編集部(数研出版)
ファインマン物理学 1 力学(1986)ファインマン(岩波書店)
文 学芸員 山田吉孝