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『遺伝子ミニラボ』は、遺伝子科学の実験室風に演出した小さな部屋です。この中では、遺伝子組換えをしたGFPメダカの飼育展示とサーマルサークラーや電気泳動装置など遺伝子分析によく使われるいくつかの器具がおいてあり、遺伝子科学の研究について関心を持ってもらうのがねらいです。生きたGFPメダカを見ることができる科学館常設展示は、国内で初めての試みです。また、ここには本物の実験機器があるので、簡易な遺伝子分析なども行うことができます。時々、遺伝子分析の公開実験もしていますから、その様子もぜひ見学してください。
遺伝子組換えの実験をしたり、遺伝子組換えをした生物を飼育や栽培培養したりするためには、法律※の基準にあった施設、運営方法が必要とされます。この遺伝子ミニラボでは、遺伝子組換え実験はできませんが、遺伝子組換えメダカの「特定飼育区画」として施設を整え、遺伝子組換えGFPメダカを飼育しています。
※「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称カルタヘナ法)」2003(平成15)年6月に成立、2004(平成16)年2月19日より施行。
GFPメダカは、GFP(Green Fluorescent Protein:緑色蛍光タンパク質)の遺伝子を組み込んだメダカです。GFPは、ノーベル化学賞を受賞(2008)した下村脩博士が、オワンクラゲから発見(1962)した物質です。GFPは、例えばホタルのルシフェリンのような発光物質とは光る仕組みが異なり、ATPや酸素がなくても、紫外線や青色の光を当てると緑色に輝く蛍光タンパク質です。このタンパク質の遺伝子を他の生物に組み込むことに成功したのが、下村博士といっしょにノーベル賞を取ったマーチン・チャルフィー博士でした。
『遺伝子ミニラボ』で展示しているGFPメダカは、「OIMA1-GFP」という系統です。メダカの骨格筋細胞にだけ発現する遺伝子が持つプロモーター(遺伝子をいつどの細胞で発現するかを決めている塩基配列)とGFP遺伝子のプラスミド(大腸菌が持つ小さな環状のDNA鎖)をメダカの受精卵に顕微注入します。するとこのプラスミドは、メダカの染色体に取り込まれます。メダカが受精卵から細胞分裂して育っていく過程で、骨格筋細胞が筋肉タンパク質を作り出すと、GFPもいっしょに作られます。つまり、骨格筋タンパク質のある細胞にGFPもできている訳です。そこで、紫外線を当てるとGFPが緑色に輝き、眼で見て骨格筋細胞の場所がわかります。この技術を使えば、受精卵から体ができてくる時に、どのタイミングで、どこでどの遺伝子が働いているか生きたまま観察して確認できるのです。この技術は、遺伝子の発現や発生の研究、がん細胞のマーカーなどに盛んに使われています。これも、DNAの塩基配列が遺伝情報になっていて、その働き方が地球上の生物で同じだからできることですね。
協力:自然科学研究機構 基礎生物学研究所
参考資料:GFP
文科省ライフサイエンスの広場 http://www.lifescience.mext.go.jp/
Transgenic medaka with brilliant fluorescence in skeletal muscle under normal light.(2004) Kinoshita M.(Fisheries.,70,645-649)
発光生物のふしぎ(2009)近江谷克(サイエンスアイ新書 ソフトバンククリエイティブ)
文 学芸員 尾坂知江子