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工場で製品が作られた後、必ず行われることが製品検査です。全品を対象にする場合と、いくつかの集団の中から無作為に抽出されたものだけが対象になる場合があります。いずれの場合にも、これまで人によって不具合がないかどうか確認していましたが、限られた時間で多くの製品を検査することが難しく、より効率的な方法が模索されてきました。
製品検査には多くの項目がありますが、部品が正確に取り付けられているかどうか、ネジがしっかりと固定されているかどうか、など見た目で判断できる検査は、近年、ロボットによって行われるようになってきました。ロボットの素早く正確な検査の様子を実感していただくことがこの展示品の目的です。
<ロボットってなに?>
命令されると、あらかじめ決められた一回限りの動作を行う機械装置をロボットと呼ぶでしょうか? たとえば自動販売機は、人間の仕事(業務)を代行する装置ですが、これをロボットとみなすかどうかは人によって答えが異なります。ロボットの定義を明確に行うことはできません。
しかし、おおよそ私たちはロボットを次のようなものと考えているのではないでしょうか。
(1)ある程度自律的に連続した自動作業を行う機械
(2)人に近い形および機能を持つ機械。「鉄腕アトム」や「機動戦士ガンダム」などSF作品に登場するようなもの
ところで、ロボットの語源は次のようなものです。チェコスロヴァキア(現在のチェコとスロヴァキアになる前の国)の小説家カレル・チャペックが創作し、1921年に発表した戯曲『R.U.R.』(エル・ウー・エル)の中で使用したものが広まり、一般的に使用されるようになりました。語源はチェコ語で「労働」を意味するrobotaとされています。
<産業ロボット>
日本は年間約10万台程度の産業ロボットを生産しており、これは世界中で生産される産業ロボットの7割に匹敵しています。日本は世界一のロボット生産国なのです。日本のロボット産業の優位性には文化的な背景もあるようです。欧米では、人は神が創ったもの、人のようなもの(ロボット)を作ることに抵抗感があるといいます。また、ロボットは雇用を奪うものという意識もあるようです。
今日、全世界で約80万台の産業ロボットが稼動しているといわれていますが、そのうち約40%にあたる35万台が日本で使われており、日本の大量生産型のモノづくりを大きく支えています。
たとえば、自動車工場では自動車の組み立て、溶接、塗装などの多くの工程でロボットが活躍しています。電化製品の工場でも製品の組み立てが行われています。これらの多くは多関節ロボットという形式のもので、人の手・腕のような形状をしています。
<多関節ロボットの構成>
多関節ロボットは、作業の状況や周辺の環境をとらえるセンサー、その情報に基づいて次の行動を決定するコントローラー、その決定を受けて動くアーム(マニピュレータともいいます)などの3つで構成されていると考えてよいでしょう。
センサーは人の感覚にあたる機能を受け持ちます。アームの位置や速度を計測します。
コントローラーは、センサーがとらえた情報を分析しつつ、あらかじめ入力された指示どおりに作業ができるようロボットアームを動かします。人でいうと頭脳にあたるのがコントローラーです。
アームにはモーターがついています。回転数を制御できるモーターで歯車を動かし、正確にアームを動かします。
<ティーチング>
ロボットにどのような作業をさせるのか、あらかじめ教え込まなければなりません。この検査ロボットでいうと、どの位置にカメラを移動しどの部品を撮影するのかを指示しなければなりません。この作業をティーチングと呼んでいます。具体的には、始点と終点の位置をロボットに覚え込ませる作業が行われます。
<フィードバック制御>
ロボットの関節に内蔵された多くのモーターを同時に動かすことで速く動くことができます。そして、アームが今どの位置にいるのか、どのくらいの速さで動いているのか、常にチェックしています。この検査ロボットは、1秒間に1000回もチェックし、ロボットの動作に反映させています。こうした作業をフィードバック制御と呼んでいます。すばやく正確で、かつなめらかなロボットの動きの背景にはこのような技術があるのです。
<画像処理>
この検査ロボットで特に重要なことは画像処理です。検査ロボットに搭載したCCDカメラで撮った画像は、コントローラー内の画像処理装置にかけられます。簡単にいうと、あらかじめ入力された本来あるべき状態の画像と比較し、ちがいがあればそのことを出力し、不具合を知らせるプログラムがロボットに入っています。
協力
株式会社デンソー
参考資料
ロボットとは何か(2009)石黒浩(講談社)
ロボットメカニクス(2009)松元明弘(オーム社)
ロボットのしくみ(2009)新星出版社編集部(新星出版)
文 学芸員 馬渕浩一