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溶接は2つの金属を接合する重要な技術です。発電所のタービンや自動車、新幹線などあらゆるモノづくりの現場で活躍しています。また、弥生時代の銅鐸にも溶接が用いられていることがあると聞きます。古代から現代の最先端技術の現場まで用いられている溶接について理解を深めていただくことがこの展示品の目的です。
<溶接とは>
2つの金属を接合すると聞くと、接着剤の利用を思いつくかもしれません。しかし、溶接は、母材(接合したい材料のこと)を物理的に溶かさなければなりません。そして、接合箇所が分子レベルで連続性を持つことが溶接の特徴です。その点で接着剤を使った接合方法とは異なります。
<アーク溶接>
溶接にはいろいろな種類がありますが、最も重要なものはアーク溶接です。単に溶接といった場合、アーク溶接のことと考えてもよいでしょう。
アーク溶接は、母材と溶接棒の間にアーク(電気スパークのこと)を発生させ、母材と溶接棒の両方を溶かしながら接合する溶接方法です。鉄材料の溶接にはよく用いられる手法で、うまく溶接できれば、溶接部の強度がきわめて高くなる特長があります。
図1に示すように、アーク溶接機から出ている2本のコードのうち、1本はトーチとよばれる保持器を介して溶接棒につなげます。もう1本は母材を置いた金属板にアースとしてつなぎます。トーチに取り付けられた溶接棒の先端を母材に軽く接触させてアークを発生させ、溶接していきます。
溶接は、それを行う技術者に高い能力を求めます。
第一に、母材と溶接棒の距離を3~5ミリに保たなければなりません。母材と溶接棒がくっつくとアークは発生しません。また離れすぎるとアークが分散し適切な溶接ができなくなります(図2)。
第二に、溶接棒の向きをリズムよく変化させねばなりません。溶接棒を直角にあて、まっすぐに進めてもうまく溶接できません。左右に首を振るように溶接棒の向きを変えながら、溶接棒を直角に押し込むようにします(図3)。これを繰り返していくのです。
溶接のときにでる光は相当に強く、光をほとんど通さない黒色ガラスを通して、溶接個所を見極めて作業しなければなりません。ですから、溶接は熟練した技術者のみに可能な技術といえましょう。
<新幹線と溶接>
最近では、摩擦撹拌溶接という技術に脚光があたっています。新幹線のN700系車両にこの技術が使われています。
摩擦撹拌溶接は、2つの母材をつきあわせてその境界にピンを押し込み、強い力で押しつけながら回転させ、母材に摩擦をかけながら撹拌する方法です。
新幹線N700系車両は軽量化のためにアルミを使っています。アルミは融点が低く、アーク溶接が難しいという欠点がありました。摩擦撹拌溶接では、摩擦熱が加わっても融点に達することはありません。新幹線の軽量化、すなわち環境性能の向上には、摩擦撹拌溶接が重要な役割を果たしています。
協力
名古屋市立工業高校
参考資料
絵とき機械加工の基礎のきそ(2006)平田宏一(日刊工業新聞)
文 学芸員 馬渕浩一