科学館を利用する > 展示ガイド > キーワード検索 > 「へ」ではじまるキーワード > キーワード【変形】 > 形状記憶合金
形を記憶している不思議な金属で、まずは遊んでみてください。熱風であたためると、線状の金属がたちまち星座の形になりますよ。
変形しても、ある温度以上になると元の形にもどる合金を「形状記憶合金」といいます。形状記憶合金は、洗濯しても型くずれしないブラジャー、めがねフレーム、釣り具、歯列矯正ワイヤー、炊飯ジャーの圧力調整弁、パイプ継ぎ手などいろいろな所で活躍しています。
【形状記憶合金】
普通の金属は、外から大きな力を加えると変形し、力を取りのぞいても元の形に戻ることはありません。ところが変形させても、ある温度以上になると元の記憶した形にもどる合金があり、「形状記憶合金」とよばれています。
形状記憶合金は20種類以上知られていますが、ニチノール(ニッケルNiとチタンTiとがほぼ1:1の割合である合金)が最も広く利用されています。その割合をほんの少し変えたり熱処理温度を変えたりすることで、形を回復する温度を20〜100度くらいの間で変えることができます。またコバルトCoを微量混ぜるとマイナス30度まで下げることもできます。
展示している形状記憶合金は、35度から50度くらいで元の形にもどります。
【形がもどるしくみ】
微小な世界、原子の世界では何がおきているのでしょうか。
金属の原子は規則正しく並んでいます。ふつうの金属に力を加えて変形させた場合は、隣り合う原子どうしのつながりが切れて、ずれて別の原子とつながります。これでは元の状態にはもどれません。
一方、形状記憶合金はどうなっているのでしょう。
まず形状記憶合金を覚えさせたい形にして、高温(400〜500度)で熱処理します。このとき合金は「オーステナイト相(図のA)」という状態です。急冷して、ある温度(変態温度)以下になると「マルテンサイト相(図のB)」という状態に変化します。原子のつながりに余裕のある少し傾いた並び方をしています。ところが合金の外見はAもBも変わりません。これに力が加えられ変形するとき、隣り合う原子どうしのつながりを保ったまま形を変えていきます(図のBからCへ)。次にCをあたためて変態温度以上にすると、合金はAの状態にもどります(図のCからAへ)。原子どうしのつながりも同じなので、合金自体の形も元にもどります。
【超弾性】
ところで形状記憶合金には、「形状記憶」のほかに「超弾性」という機能があります。超弾性というのは、変形しても力を取りのぞくとすぐに元の形にもどる性質です。じつは、この二つの違いは、合金の形がもどる温度の違いによるものです。
形がもどる温度が室温より高く、あたためる必要があるものは「形状記憶」とよばれます。一方、形がもどる温度が低温のものは、室温や体温ですぐ元の形にもどり「超弾性」とよばれます。展示のねらいであげた例でも、この超弾性の性質を利用した製品が多いです。
協力
大同特殊鋼株式会社 Daido Steel Co., Ltd.
参考資料
雑誌解体新書編集部 モノのしくみ/技術のふしぎ編2 (1996) 日刊工業新聞社
金属のふしぎ( 2008 ) 齋藤勝裕(ソフトバンククリエイティブ)
大同特殊鋼株式会社 http://www.daido.co.jp/products/titanium/memory.html
吉見製作所 http://www.yoshimi-inc.co.jp/
文 学芸員 石田恵子