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私たちの生活にはいたるところで、香料が使われています。そして、あらゆる香りが人工的につくられています。この展示で体験できる10種類の香りは、すべて合成香料です。実際にその香りを体験してみてください。
【天然香料】
香料の歴史は非常に古く、今から4千から5千年前にさかのぼると考えられます。香料をたいて身を清めたり、香料入りの軟膏(なんこう)をぬったり、また香料のもつ防腐殺菌効果を食物などの保存に利用したりしました。天然香料は動物性と植物性に分けることができます。動物性香料は数種類しかありませんでしたが、最近では食肉や魚介類からも得られるようになりました。植物性の香料がほとんどで、花、実、樹皮、葉、茎、根などさまざまな部分が原料となります。これらから、水蒸気とともに蒸留させたり、圧搾したり、溶媒で抽出したりして香りの成分(精油等)を取り出します。
【展示されている実物の天然香料】
・ 麝香(じゃこう/ムスク)…ヒマラヤ山麓のネパールやブータン・チベット・雲南などに住む麝香鹿(じゃこうじか)の雄の分泌物です。そのままでは不快臭ですが、乾燥するとよい香りになります。
・龍涎香(りゅうぜんこう/アンバーグリス)…マッコウ鯨の胃や腸にできる一種の結石で、ほのかに甘い香りがします。類(たぐい)まれなよい香りがする貴重品だったので、龍のよだれが固まってできたと中国で考えられ、この名前がつきました。
・霊猫香(れいびょうこう/シペット)…エチオピア産の麝香猫の性腺の分泌物。やわらかいペースト状で、へらでかきとり、牛の角の容器に貯めます。(この容器を展示しています。)そのままではひどい不快臭ですが、薄めるとよい香りになります。
・海狸香(かいりこう/カストリウム)…ビーバーの肛門近くにある香のうを乾燥したものです。
・ 乳香(にゅうこう/オリバナム)…南アラビアや東アフリカの山地に成育する乳香樹(カンラン科)の樹液を固めたもので、火にたくとすがすがしい香りがします。古代より宗教の儀式に使われていました。
・没薬(もつやく/ミルラ)…ソマリアや南アラビアに成育する没薬樹(カンラン科)の樹液を固めたものです。殺菌力や保留効果が強いのでミイラ作りに使われました。
・沈香(じんこう/アーガルウッド)…水に沈むことからこの名前がついています。沈香のなかで高級品を伽羅(きゃら)といい、奈良の正倉院の「蘭奢待(らんじゃたい)」とよばれる香木はその代表です。
・白檀(びゃくだん/サンダルウッド)…白檀の樹幹・根から抽出される香料です。香りのする扇子は、この白檀の香りです。
【合成香料】
合成香料は、石油や精油を原料に化学反応を利用してつくられる香料です。合成香料をつくるにあたっては、まず天然香料の成分を分析し調べることから始めます。例えば、ジャスミンの香りは約150種類の成分から構成されます。そして、成分各々の分子構造を調べ、別の原料からその成分を合成し香料とします。
食品、化粧品をはじめ、身の回りに使われている香料の多くは合成香料ですが、一種類の成分でできているわけではありません。また同じ香料でも、濃いときと薄めたときとでは、全く異なる香りと感じます。熟練した調香師が数千種類の合成香料と天然香料の中から必要な香料を選んで調合し目的にあった香りをつくりあげていきます。
【香りと分子】
香り物質は、揮発しやすい小さな分子です。空気中をただよい、鼻の奥にある嗅覚細胞に付着することで、私たちはにおいを感じることができます。くだものの香りにはエステル結合をもつ小さな分子が多いなど、分子構造が似たものは、香りも比較的共通することが多いといわれています。しかし一方、構造のほんの少しの違いで全く違う香りになることもあります。香りは奥の深い世界です。
協力 高砂香料工業株式会社
参考資料
香りの小百科(1996) 渡辺洋三(工業調査会)
わかりやすい香りのテクノロジー(1997) 天田圭子他(オーム社)
においの化学(1988)長合川香料株式会社(裳華房)
日本香料工業会のサイトhttp://www.jffma-jp.org/
文 学芸員 石田 恵子