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展示では、水中でゆれ動く酸化チタンの微粒子を顕微鏡からテレビモニタに映し出しています。よく観察してみましょう。すると微粒子がふるえるように不規則に運動しているのがわかります。この微粒子は生物でもないのに、なぜ動き続けているのでしょう。
原子や分子はとても小さくて目に見えません。しかし「ブラウン運動」という見える現象から原子・分子の世界を知ることができます。
【ブラウン運動とは】
気体や液体の分子は、たえず熱運動をしています。そして気体中や液体中にある微粒子も、これらいくつかの分子に衝突され続けています。その結果、微粒子は不規則に動かされることになります。このような微粒子の運動を「ブラウン運動」といいます。
微粒子を浮かべる気体や液体の種類によらず、ブラウン運動はおこります。ブラウン運動は、温度が高いほど、微粒子が小さいほど激しくなります。
【ブラウン運動の発見】
1827年、イギリスの植物学者ロバート・ブラウンは、花粉を水のなかに入れて顕微鏡で観察していたところ、花粉からでた微粒子がたえず細かく不規則に動いていることに気づきました。最初は生物だから自分で動いているのだろうとブラウンは考えました。しかし、いろいろ調べてみて石の粉のように生命のないものでも、同じように動くことを発見しました。
ブラウンはこの運動の原因を解明することはできませんでしたが、発見者の名前にちなんで「ブラウン運動」とよばれています。
【ブラウン運動によって、何がわかったか】
原子・分子そのものを直接見ることはできませんが、顕微鏡で微粒子の動きを見ることによって、間接的に原子・分子の存在を知ることができます。
この「ブラウン運動」は、じつは科学史上、重要な意味をもっています。結論からいいますと、ブラウン運動によって、原子や分子が実在することが証明されたのです。
19世紀末から20世紀初頭のころは、原子や分子は存在しない、と考えている科学者も多かったのです。原子や分子という概念としては使われていたのですが、それが現実に存在するという意味ではないと思われていました。
しかし1905年、アルベルト・アインシュタインは、微粒子のまわりにある気体や液体の分子の運動が、ブラウン運動の原因と考え、数学的に解析しました。(余談ですが、アインシュタインは同年に「ブラウン運動の理論」「光電効果の理論」「特殊相対性理論」という3つの革命的な論文を発表しています。)
そして1908年にフランスのジャン・ペランが、ブラウン運動を観測し、アインシュタンの理論が正しいことを証明しました。こうして、ようやく原子や分子の存在が広く信じられるようになりました。この功績により、ペランは1926年のノーベル物理学賞を受賞しています。
【コロイド】
ところで、ここまで微粒子と説明してきましたが、化学用語では「コロイド粒子」といいます。100万分の1mmから1万分の1mm程度の大きさの粒子が他の物質の中に均一に散らばっている状態を「コロイド」といいます。一方、原子の大きさは1千万分の1mm程度です。コロイド粒子は、原子にくらべるとずいぶん大きいことがわかります。
粒子が大きいため、コロイド粒子を液体に溶かした場合は、真の溶液のような透明にはならず、不透明な懸濁液になります。牛乳やインク、墨汁、絵の具、どろ水などがその例としてあげられます。
霧や煙、バター、クリーム、寒天、こんにゃく、ゼリー、ゼラチン、マヨネーズなど、私たちの身のまわりや自然界の多くのものがコロイドです。
参考資料
ブラウン運動(1986) 米沢富美子(共立出版)
岩波科学百科(1989) (岩波書店)
思い違いの科学史(2002) 板倉聖宣 他(朝日新聞社)
文 学芸員 石田恵子