科学館を利用する > 展示ガイド > 展示フロアマップ > 音のフレネルレンズ
同心円状に隙間のあいた大きな板で、音を集められることを体験してもらいます。音を集めることができるのは、回折や干渉という波の基本性質によることを理解し、音は空気の波であることを知ってもらいます。
展示品で音を集めることができるのは、波の基本性質である『回折』と『干渉』を上手く利用しているからです。『回折』は波が障害物を越えて回り込む現象です。対面する2人の間に壁を立てても、壁の横から音は回り込むことができるので2人は話をすることができます。この音の回り込みが『回折』です。『干渉』は複数の波が重なりあうことで生じる現象です。波と波が重なりあうことで、時には強め合い、時には弱め合います。
展示品は同心円状に隙間が開いていて一部の音だけが通過できるようになっています。その時、重なったら強め合うような波のみを通過させれば、音を集めることができます。そのように計算されて穴が開けられたのが展示品の大きな板です。
干渉のさせ方によって、音は大きくすることも小さくすることもできます。2つの波の山と山、谷と谷を重ね合わせれば音は大きくなります。山と谷、谷と山を重ねるとお互いに打ち消し合ってしまい音は小さくなります。上手に重ね合わせれば音は消えてしまうほどです。展示品では、音源から空間に広がって同心円状の板のいろいろな隙間を通って回折した複数の音の波が、音源と板をはさんだ反対側のある一点に、 山と山、谷と谷が重なり合うように設計されています。音源から様々な道筋を通り、反対側のある一点にいたる様々な波が、どれも山と山、谷と谷が重なりあうようにするためには1つの法則があります。それは、いろいろな道筋があろうとも、それぞれの道のりの差は、その音の波長の整数倍になっているということです。道のりの差が波長の整数倍であれば山と山、谷と谷が重なり合って音は大きくなります。もし、整数倍でない波、特に[整数+0.5]倍の波があると音を打ち消してしまいます。同心円状の板の部分は、[整数+0.5]倍の波がやってくるところなのです。ですから板を張って音が来ないようにしてあるわけです。
フレネルレンズとはレンズの厚みを薄くするために工夫されたレンズで、フランスの物理学者オーギュスタン・ジャン・フレネルによって灯台用のレンズとして開発されました。フレネルレンズは正面から見たときに同心円状に見えるのが特徴で、厚みが薄いことから携帯用のレンズに使われてもいます。展示品は音を集める機能があり、形状が同心円をしていることから、音のフレネルレンズと命名されました。
音のフレネルレンズは平成8年度東京都理科教育研究会物理専門委員会の波動・電磁気グループが電波レンズに着想を得て、東京都立高校教諭の田原輝夫さんを中心に研究開発が行われたものです。
参考資料
「音のフレネルレンズの製作と教材化」東レ理科教育賞受賞作品集. 第29回(平成9年度) (1994) 田原 輝夫(東レ科学振興会)
http://www.toray.co.jp/tsf/rika/rik_009.html
視覚でとらえるフォトサイエンス物理図録(2006)数研出版編集部(数研出版)
著者 文 学芸員 山田吉孝